配偶者の不貞行為は、夫婦関係を破綻させる重大な原因となります。しかしながら、「どこからが不貞行為なのか。」、「どのような証拠が必要なのか。」、「慰謝料はどのくらい請求できるのか。」など、その判断基準や法的な手続について疑問を抱く方も少なくありません。実際に不貞を原因とする離婚を検討する上で、これらの疑問が解消されなければ、どの程度費用をかけて離婚に取り組むべきか、決定できないでしょう。
この記事では、これらの疑問について弁護士が詳しく解説していきます。
どこからが不貞行為なのか
そもそも、どこからが不貞行為とされるのでしょうか?
不貞行為とは、民法上の「不貞な行為」(民法770条1項1号)を指し、最高裁によって、具体的には、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」を指すと定義されています(最高裁昭和48年11月15日判決・民集27巻10号1323頁)。
ここで「自由な意思にもとづいて」との文言が含まれているのは、いわゆる不同意性交の被害者等の、自己の自由意思に基づかずに性的関係を結んでしまった人には、不貞行為が成立しないためです。
不貞行為となる行為
このように、不貞行為と判断されるのは、基本的に「性的関係」があった場合です。
性的な関係
性的な関係とは、性交渉のみならず、性交類似行為(口腔性交や肛門性交など)も含まれると理解されています。これらの行為があった場合、原則として不貞行為と認定されるでしょう。
性的関係があると推測される場合
このような直接的な性交渉・性交類似行為の証拠がなくても、状況証拠から性的な関係があったと強く推測される場合も不貞行為とみなされることがあります。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
ラブホテルへの出入りが複数回確認されている
ラブホテルに2人で出入りする様子が確認されると、性的関係があることが推測されます。不貞をする相手によっては、ラブホテルで本当に休憩しただけである、相談を聞いてもらっただけである、といった主張をする相手もいます。
相手の自宅に宿泊し、朝帰りしている
やはりこのような行為があった場合も、ラブホテルへの出入り同様に、性的関係の存在が疑われます。これらの状況証拠は、探偵への依頼などによって収集します。
性的な関係を匂わせるメッセージのやり取りがある
また、例えば、性交渉をしていることが窺われるようなLINEのやり取りなどを写真におさめることができれば、これも強い証拠となります。
不貞行為とならない行為
一方で、以下のような行為がある証拠のみでは、性交渉や性交類似行為には当たらないので、直ちに不貞行為があるとは判断されないことが多いです。
メッセージ・電話のやり取りのみ
異性とのメッセージや電話のやり取りだけでは、原則として不貞行為とはみなされません。これは、頻度や時間帯を問いませんので、夜間に頻繁にメッセージや電話をしているだけでは、証拠としては弱いです。
ただし、その内容が性的であったり、恋愛感情を匂わせるものであったりする場合は、不貞行為の状況証拠の一つとなり得ます。
食事・デートのみ
また、複数回にわたる食事やデートがあっても、それ自体を不貞行為ということはできません。しかし、これが頻繁かつあなたに隠れて行われていたり、二人きりで深夜まで及んでいたりする場合には、不貞行為を疑わせる行動として扱われる可能性があります。
特に、深夜・朝帰りに及ぶようなデートがある場合には、上記のとおり、不貞に及んでいる可能性を一定程度示せます。
手つなぎ・ハグなどの行為のみ
手をつないだり、ハグをしたりといった行為も、直ちに不貞行為とはなりません。同様に、キスをするだけでも、不貞行為とまではいえません。ただし、他の状況証拠と組み合わせることで、不貞行為の判断に影響を与える可能性はあります。
例えば、ラブホテルや相手方の自宅から手を繋いで出てくる場合には、不貞行為の存在を窺わせる事情といえるでしょう。
慰謝料請求
あなたの配偶者に不貞行為があった場合には、精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求することができます。慰謝料請求は、不貞行為を行った配偶者と、その不貞相手の双方に対して行うことが可能です。
但し、不貞相手に慰謝料請求をするためには、不貞相手に故意又は過失、つまり、不貞相手の行為が不貞に当たること・性交渉の相手が婚姻していることを知っていたか、知り得たことが必要となります。
性的関係の証拠がある場合
性的関係の明確な証拠がある場合、慰謝料請求は比較的スムーズに進むことが多いです。証拠が強力であればあるほど、請求が認められる可能性が高まります。
不思議なもので、不貞行為に及ぶ人は、お互いのやり取りや写真など、不貞行為の証拠を残しがちです。離婚・慰謝料請求を有利に進めるためにも、不貞が疑われる場合には、証拠の収集に注力しましょう。
性的関係の証拠がない場合
他方で、直接的な性的関係の証拠がない場合でも、慰謝料請求が不可能というわけではありません。間接的な証拠(状況証拠)を積み重ねることで、不貞行為があったと認定されるケースもあります。
現在の証拠で慰謝料請求が可能かどうかは、ぜひ、弁護士にご相談いただいてご判断ください。
証拠になり得るもの
性的関係の直接的な証拠がない場合でも、以下のようなものが証拠として有効になり得ます。
メッセージアプリやSNSの履歴
性的関係を匂わせる内容、頻繁なやり取り、秘密裏の交流など。
メールや手紙
性的関係を匂わせる内容、頻繁なやり取りなど。
写真・動画
二人が密着している様子、ラブホテルへの出入り、相手の自宅への宿泊など。ドライブレコーダーに密会の様子が残っていることもあります。
ICレコーダーによる録音
不貞行為を認める発言、肉体関係を示唆する会話など。
クレジットカードの利用履歴
ラブホテルや特定の飲食店での利用履歴など。
交通系ICカードの履歴
相手の自宅周辺駅での利用履歴など。また、自動車のナビの履歴に証拠が残っていることもあります。
興信所・探偵の調査報告書
不貞行為の状況をまとめた客観的な報告書。
証拠の集め方
証拠を集める際には、以下の点に注意が必要です。
違法な手段での証拠収集は避ける
プライバシー侵害や盗聴など、違法な方法で収集した証拠を用いると、それ自体を理由に損害賠償請求をされる可能性もあります。必ず、証拠の集め方については弁護士の助言を仰ぎましょう。
継続的な記録
一度きりの証拠よりも、複数回にわたる継続的な証拠の方が、不貞行為の立証に繋がりやすいので、複数かつ継続的に証拠を集めましょう。
客観性
主観的な感情・供述ではなく、客観的な事実を示す証拠を集めることが重要です。「あやしい」といった感情を一度横に置いて、証拠収集しましょう。
専門家への相談
やはり、どのような証拠が有益といえるかは弁護士でなければ分かりません。証拠収集の方法や有効性について、弁護士に相談することをお勧めします。
不貞類似行為について
不貞行為とまでは言えないものの、配偶者以外の異性との間で、夫婦の貞操義務に反するような親密な関係を結ぶことを「不貞類似行為」と呼ぶことがあります。不貞行為同様に、婚姻関係を破綻させる可能性がある行為ですので、慰謝料が発生する場合があります。
例えば、頻繁な個人的な交流、密会、キスを繰り返すなどの行為がこれにあたります。
もちろん、これらの行為だけでは慰謝料請求が難しい場合が多いですが、不貞類似行為が夫婦関係を破綻させる一因となっているといえれば、離婚原因として主張できる可能性はあります。そうすることで、離婚に至る原因を構築したということで離婚慰謝料請求ができる余地が生じるのです。
また、証拠上不貞類似行為が積み重なっていることを示すことができれば、最終的に不貞行為があったと考えられるとも指摘できます。
肉体関係がなくても慰謝料請求できるケース
肉体関係がなくても慰謝料請求が認められるケースは、いくつか存在します。代表的な例として、以下のような場合が挙げられます。
肉体関係に近い、強い親密さがあった場合
- ・手をつなぐ、ハグ、キスなど、恋人同士のような関係
- ・LINE・SNSで「愛してる」「会いたい」などのメッセージを頻繁に送信
- ・深夜に二人きりで頻繁に会っていた
肉体関係がないと聞いても、パートナーが異性と親密にしていれば十分につらいものです。そのため、頻繁なキスやハグ、二人での宿泊など肉体関係に近い非常に親密な関係がある場合には、肉体関係がなくても夫婦の平穏を害する行為として慰謝料請求が認められる可能性があります。
パートナーが強い精神的苦痛を受けた場合
- ・明らかに「不倫まがい」の関係に苦しんで精神的に不安定になった
- ・夫婦関係に深刻な影響(別居・離婚など)が出た
浮気によって深い精神的ショックを受け、日常生活に支障が出るほど追い詰められてしまったら、それだけでも大きな問題です。パートナーが強い精神的苦痛を受けたと認められれば、たとえ肉体関係が証明できない場合でも慰謝料請求が認められる可能性があります。実際に、夫の度重なる不適切な交際で妻が心労のあまり通院・服薬を余儀なくされ、不倫相手に対する慰謝料が認められた判例もあります。
社会的に著しく不相応な行為
- ・既婚者であることを知っていながら頻繁にデート・旅行
- ・高額なプレゼントを渡していた
- ・長期間浮気相手の家で同居していた
既婚者として社会的に著しく不相応な行為、例えば浮気相手との長期間の同居や高額な援助・プレゼント、二人きりでの長期旅行などは、夫婦生活の平穏を害するものとして不法行為に該当すると判断され、慰謝料請求が認められる場合があります。
実際に、配偶者が浮気相手と長期間同居していたケースでも、性的関係がないとの主張にもかかわらず不法行為が成立し、慰謝料の支払いが命じられた判決があります。
不貞行為が原因の離婚の流れ
不貞行為が原因で離婚を検討する場合、一般的には、以下のような流れで手続を進めることになります。
証拠確保
まず、不貞行為の証拠を確保することが最も重要です。そもそもこの証拠がなければ、慰謝料請求や離婚請求が困難になる可能性があります。上記「2-2-1. 証拠になり得るもの」を参考に、できるだけ多くの客観的な証拠を集めましょう。
弁護士へ相談
客観的な証拠がある程度集まったら、早急に弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、集めた証拠の有効性・効力を判断し、今後の手続や慰謝料の相場、見込みについて具体的にアドバイスすることができます。
もちろん、相手方との交渉・裁判等の依頼をすることも可能です。そうすることで、離婚交渉・裁判のストレスを軽減することができるでしょう。
話し合い(協議離婚)
その上で、まずは、当事者間で話し合い(協議)を行い、離婚合意の形成を目指します。いわゆる緑の紙(離婚届)を夫婦で作成して提出するのが協議離婚です。
慰謝料や財産分与、親権、養育費などの具体的な条件についても話し合います。話し合いがまとまれば、約束が守られるよう、公正証書を作成することをお勧めします。
離婚調停
協議での話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。離婚事件では、いきなり裁判を起こすのではなく、調停を先に起こすことが法律上要求されます。調停では、調停委員を介して夫婦それぞれの意見を調整し、合意形成を目指すこととなります。ちなみに、離婚調停は非公開で行われます。
離婚訴訟
調停でも合意に至らない場合、最終的に離婚訴訟を提起することになります。訴訟では、裁判官が証拠に基づいて離婚の可否や慰謝料などの条件を判断します。訴訟は時間も費用もかかりますし、場合によっては当事者尋問を実施する可能性もありますから、最終手段として考えられます。
訴訟においては、裁判官を説得するために、証拠を揃えて裁判所に提出して不貞行為の存在や慰謝料額を争うこととなります。
まとめ
以上のとおり、不貞行為の意味、証拠収集方法、慰謝料について解説しました。
不貞行為の判断は、証拠上、具体的にどこまでの行為があったといえるか、そしてどのような状況があったといえるかによって異なります。性的な関係があったかどうかが重要なポイントですが、直接的な証拠がない場合でも、状況証拠を積み重ねることで不貞行為が認定される可能性は十分にありますから、諦めずに、ぜひ弁護士にもご相談ください。
不貞行為を理由とする慰謝料請求や離婚を検討する際は、まずは不貞行為の証拠をしっかりと集め、速やかに弁護士に相談することが重要です。一人で悩まず、専門家の力を借りて、前に進む一歩を踏み出しましょう。当事務所では、離婚事件を多く取り扱っておりますので、不貞行為やこれに対する慰謝料請求にも対応することが可能です。
あなたからのご相談を親身に伺い、真剣に事件処理する弁護士が揃っておりますので、お悩みの場合には、ぜひ当事務所にご相談ください。
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