離婚する際に住宅ローンが残った自宅がある場合、自宅にどちらが住むか、離婚時に決定することとなります。
このとき、夫側としては、小中学生のお子さんが居る場合には、子どもの学区等の問題もありますから、自宅に元妻と子どもを住まわせる判断をされることも多いでしょう。
このように、離婚後、住宅ローンが残っている自宅に妻と子どもを住ませる場合には、住宅ローンも養育費も両方負担するかというと、通常は妻側が住宅ローン分の費用を負担することとなるものと考えられます。とはいえ、なかなか妻側がが住宅ローンを負担するということは現実的ではありません。
そこで妻側としては、養育費と住宅ローンを相殺するということを考えることとなります。この記事では、離婚後に、養育費と住宅ローンを相殺することができるのかという点について解説していきます。
養育費と住宅ローンは「事実上」相殺できる
結論から述べますと、養育費と住宅ローンを、「事実上」相殺することは、夫婦の合意があれば可能です。
例えば住宅ローンが月額9万円、養育費が月額13万円だとした場合には、夫婦間で相殺の合意をしていれば、単純に妻が養育費を月額4万円受け取るということで解決ができます。
また、住宅ローンが月額12万円、養育費が月額8万円だとした場合には、夫婦間で相殺の合意をしていれば、妻が月額4万円負担するだけで、自宅に住み続けることができます。
このように、養育費と住宅ローンを相殺することで、妻側が負担を小さく又はゼロにして自宅に住み続けることができるのです。離婚する際に、夫側に理解をしてもらった上でこのような合意をしておけばよいのです。夫側からしても、養育費を支払っているというだけの扱いになりますから、実際上支払う金額が増えることにはなりませんので、相殺合意をする交渉は進めやすいといえるでしょう。
法的に相殺が認められない理由
ちなみに、どうして養育費と住宅ローンを相殺することは認められていないのでしょう。これは、養育費の性質によります。
そもそも養育費は、子どもの生活を保障するために親に支払が義務付けられています。このため、例えば第三者が養育費支払請求権の全てを差し押さえることができないですし、事前に親が処分・放棄することもできません(民法881条)。まさに子どもの生活を守るために必要なものですから、子どもから養育費の支払を受ける権利全てを奪うことはできないのです。いかに親・親権者といえども、勝手に養育費支払請求権を失わせることはできません。
このことから、養育費を相殺して処分することはできないとされます。民法上も、差押えができない債権を相殺することはできないと規定されています(民法510条)。
このため、養育費と住宅ローンを相殺する場合には、あくまでも、夫婦の合意によって「事実上」相殺をしている状態にする、ということができるに過ぎません。
養育費と住宅ローンを相殺する時の注意点
さて、ここで、養育費と住宅ローンを相殺する時の注意点についてもご案内します。
離婚協議書や公正証書への記載
まずは、必ず、離婚協議書や公正証書に記載をするようにしましょう。口頭で約束しただけでは、後から約束を反故にされても何ら法的措置を取ることができませんし、相手方が前言を翻して住宅ローン相当額を支払うよう求めてきた際に有効な反論をすることもできません。養育費と住宅ローンを相殺する合意をしたことについて、証拠を残しておくことが必要なのです。
この際には、やはり証拠としての力の強い、公正証書によって離婚協議書を作成し、相殺条項を入れておくと良いでしょう。公正証書であれば、仮にのちに裁判になったとしても、強い信用性を確保することができます。
どのような内容で公正証書を作成するべきか、また、相殺合意条項の内容をどうするべきかという点については、ぜひ弁護士のアドバイスを受けてください。
金融機関より一括返済を求められる可能性
次に、金融機関から住宅ローンの一括返済を求められる可能性があることにも留意しましょう。
本来、住宅ローンは、住宅ローンを支払う者の住居として利用する建物・土地購入費用であるからこそ、一定の低金利による貸付がなされるものです。このため、住宅ローンを支払う夫自身(建物・土地の所有名義人)が住んでいないことが知れますと、契約違反によって住宅ローン貸付契約を解除され、住宅ローンの一括返済を求められる可能性があります。大きなリスクですが、なかなか回避は困難ですので、ご注意ください。
また、住宅ローンと養育費を相殺する場合には、住宅ローンの全部または大部分を夫に支払い続けてもらうこととなります。仮に夫が住宅ローンの支払を滞った場合には、上記の場合と同様に住宅ローンの一括返済を求められるとともに、住宅についての抵当権の実行がなされてしまう可能性があります。こうなると、住宅への引き続きの居住が保障されなくなってしまうこととなります。
将来的にトラブルになりやすい
ちなみに、離婚後も元配偶者名義の不動産に住み続けることは、その性質上、将来的にさまざまなトラブルが発生する可能性が高いという点を十分に認識しておく必要があります。
例えば、元配偶者が勝手にその不動産を第三者に売却してしまうといった事態も実際に起こり得ます。予期せぬ売却によって、居住権が突然失われるという深刻な状況に陥るリスクがあるのです。
また、元配偶者が再婚したケースなどでは、新しい生活の都合や新しい家族の意向により、居住者に対して急な退去を求めてくるといった事態も考えられます。これまで住み慣れた家から、思いがけず立ち退きを迫られることは、精神的にも大きな負担となるでしょう。
このような予期せぬトラブルを未然に防ぐため、離婚時に作成する離婚協議書などに、住宅の帰趨に関する具体的な条項を設けることがあります。例えば、一定期間の居住権の保証や、売却時の事前通知義務などを盛り込むことで、ある程度の防御策を講じることができます。
しかしながら、残念ながら全ての将来的なトラブルを完全に防ぎきることは非常に困難です。どれだけ詳細な取り決めをしたとしても、状況の変化や相手の意思によって、予期せぬ問題が生じる可能性はゼロではありません。そのため、元配偶者名義の不動産に住み続ける限り、一定のリスクを背負い続ける覚悟が必要不可欠となります。
税務上のリスク
最後に、税務上のリスクが残ってしまうことも挙げられます。
住宅ローンの支払をせずに夫所有の住居に住んでいるということから、事実上、夫所有の住居の贈与を受けたなどとみなされてしまうと、贈与税が課されるリスクがあります。
また、夫側からしても、住宅に夫が住んでいないことが判明した場合に、住宅ローンの支払によって得られていた税務上の税額控除(住宅借入金等特別控除)制度が受けられなくなるリスクがあります。
養育費の支払を受けるだけであれば、養育費は元々非課税とされているため問題はないのですが、住宅ローンとの相殺や、他人名義の不動産へ居住し続けるというやや歪な状況ゆえに、様々な問題に直面するリスクが残ります。
養育費と住宅ローンの相殺を弁護士に相談するメリット
このような養育費と住宅ローンの相殺を弁護士に相談するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。やはり、弁護士の助力が必須といえるでしょう。
離婚協議書や公正証書の作成サポート
まずは、離婚協議書・公正証書といった法律文書作成において、やはり法律専門家である弁護士ならではの視点からの助言・助力を得ることができることがメリットといえます。
弁護士に相談・依頼すれば、単に「相殺する」と記載するだけでなく、その具体的な内容(例えば、養育費のうちいくらを住宅ローンの支払に充てるか、支払期間、滞納時の対応など)を明確に盛り込んだ離婚協議書の作成をサポートできます。これにより、離婚する者双方の権利と義務が明確になり、後々の誤解や争いを防ぐことができます。
また、公正証書作成のための手続や必要書類の整理・準備、内容の吟味までサポートし、より強力に法的拘束力を持つ合意の形成に一役買うこともできます。
トラブルにならないアドバイス
また、弁護士はトラブル予防の専門家でもありますから、そもそもトラブルにならないようなアドバイス・提案を受けることができる点もメリットといえます。
上記のとおり、養育費と住宅ローンの相殺は、その性質上、多岐にわたるトラブルのリスクを抱えています。弁護士は、これらのリスクを事前に予測し、これらを回避するための具体的なアドバイスを提供します。特に、元配偶者の再婚・収入の増減や、お子様の卒業時期、住宅ローン完済時期や未払時の対応など、将来起きうるトラブルを想定して対策を練っておくことためには、弁護士の助力は必須でしょう。
弁護士は多くのトラブルを見ていますから、あなたのケースに応じたオーダーメイドの提案をすることができるはずです。ぜひ、まずは信頼できる弁護士にご相談ください。
まとめ
以上のとおり、離婚時に養育費と住宅ローンは相殺できるのか、という点についてご説明してきました。養育費と住宅ローンの相殺は夫婦間の合意で、ある種簡単にできてしまいますが、抱えているリスクが非常に大きなものとなります。ぜひ、事前に弁護士にご相談をいただき、弁護士からのアドバイスを参考にした上で行動していただきたく存じます。
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