不倫トラブルでは、
「会社に不倫の事実を言いふらす」
「今すぐ辞めないと、職場に直接行く」
といった言葉で脅されるケースが少なくありません。
たしかに、不倫という事実がある以上、非難を受ける立場にあると感じ、「逆らえない」「言うことを聞くしかない」と追い詰められてしまう方も多いでしょう。
しかし、不倫が事実であっても、相手方の行為が何でも許されるわけではありません。
社会的地位や職場を人質に取るような言動は、内容や態様によっては刑事責任を問われる可能性があります。
本記事では、不倫問題に多く対応してきた弁護士の視点から、
- 「会社にバラす」という脅しが、どこから違法になるのか
- 脅迫・強要・恐喝の違い
- 職場や家族を守るために、実際に取るべき行動
を、実務に即して整理します。
感情に支配される状態から一歩距離を置き、法的に許される範囲と、越えてはならない一線を正しく理解することが、平穏を取り戻す第一歩です。
目次
「会社にバラす」は犯罪か?脅迫・強要・恐喝の境界線
不倫の事実がある以上、相手方から一定の非難を受けること自体は避けられない、と感じる方が多いでしょう。
しかし、不倫が事実であっても、相手方の行為がすべて許されるわけではありません。
問題となるのは、「どのような言動が、正当な請求の範囲を超え、犯罪として評価され得るのか」という点です。以下では、実務上問題になりやすい犯罪類型ごとに整理します。
【脅迫罪】「バラす」「殺す」「反社を使う」等の告知
相手が感情的になり、恐怖を感じさせる言葉を投げかけてくる場合、脅迫罪(刑法222条)が問題となります。
脅迫罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知し、一般人を畏怖させる行為を処罰するものです。
たとえば、次のような発言は、内容や状況によって脅迫罪に該当し得ます。
- 「会社に居られなくしてやる」
- 「不倫の証拠を社内にばら撒く」
- 「知り合いを使って痛い目を見せる」
重要なのは、その発言が、受け手に現実的な恐怖を与える程度に具体性を持つかという点です。不倫が事実かどうかは、脅迫罪の成立とは直接関係しません。
特に、反社会的勢力や暴力をほのめかす表現は悪質性が高く、録音・保存などで証拠化できれば、警察や弁護士に相談する重要な材料となります。
【恐喝罪】金銭を要求された場合
「会社に言われたくなければ金を払え」といった形で、害悪の告知と引き換えに金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条)またはその未遂に該当する可能性があります。
恐喝罪は、正当な請求の範囲を超え、相手を畏怖させ、金銭等を交付させる(またはその意思を形成させる)行為を処罰する犯罪です。
慰謝料請求そのものは違法ではありませんが、「暴露」「職場への介入」などを手段に用いると、適法な権利行使の範囲を逸脱します。
この段階に至っている場合は、個人で対応し続けるべきではなく、速やかに弁護士等の専門家に相談すべき状況と言えます。
【強要罪】退職強要や念書の無理やりな作成
脅しを用いて、相手に義務のない行為をさせる場合には、強要罪(刑法223条)が問題となります。典型例としては、次のようなケースです。
- 「会社を辞めなければバラす」と退職届を書かせる
- 拒否しているにもかかわらず、高額な慰謝料の念書を書かせる
- 土下座や謝罪動画の撮影を強要する
これらは、個人の意思決定の自由を侵害する行為です。なお、脅迫や強要によって作成・署名させられた示談書や念書は、民法96条(強迫)により取消しを主張できる余地があります。
また、強要罪は「3年以下の拘禁刑(罰金刑なし)」とされており、実務上も軽視されない犯罪類型です。
【名誉毀損罪】事実であっても職場への暴露は違法
「本当のことを言って何が悪い」と主張する方もいますが、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為は、名誉毀損罪(刑法230条)に該当します。
たとえ不倫が真実であっても、次のような行為は問題となり得ます。
- 職場に不倫の詳細を書いた手紙や文書を送付する
- 同僚や取引先に電話で不倫の事実を言いふらす
- SNSで実名を挙げて暴露する
実務上は、送付先が少人数であっても、そこから情報が広まる可能性(伝播可能性)があれば「公然性」が認められる場合があります。
公益目的等の例外(刑法230条の2)に該当しない限り、私的な制裁としての暴露行為は、法的に保護されません。
相手が職場や自宅に押しかけてくるリスクと対処法
言葉だけでなく、実際に相手が物理的な行動に出るケースは深刻です。
ストーカー行為や住居侵入、暴力沙汰へ発展する恐れがあります。身の安全を守る対策を講じましょう。
監視カメラやGPSによる追跡・待ち伏せへの対策
近年、GPS機器や紛失防止タグ等を悪用した無断での位置情報取得が社会問題となり、ストーカー規制法の改正などにより、監視行為に対する法規制は強化されています。
実際に問題となりやすい行為には、次のようなものがあります。
- 使っていないスマートフォンを録音機として車内に隠す
- 自宅室内や自転車のサドル下などに小型カメラを設置する
- 車両や持ち物にGPS機器・追跡タグを取り付ける
これらを発見した場合でも、感情的に自分で取り外したり、破壊したりしてはいけません。
破壊行為が「器物損壊」と主張されるリスクがあるほか、刑事・民事の場面で重要な証拠を失うおそれがあります。
まずは自身の安全を確保したうえで、
- 現状を写真や動画で記録する
- 触れずにそのままの状態を保全する
- 速やかに警察や弁護士へ相談する
といった対応をとることが望ましいでしょう。
職場に配偶者が乗り込んできた場合の対応
不倫相手の配偶者が、事前の連絡なく職場に現れ、大声を出したり、上司との面談を求めたりするケースは、実務上も少なくありません。
この場面で動揺し、その場で話し合いに応じることは、かえって事態を悪化させるおそれがあります。以下の手順で、冷静に対応してください。
- 場所を限定する
社内での対応は周囲の目に触れ、業務への影響も大きくなります。可能であれば会議室や社外スペースに誘導し、「ここでは対応できません」と明確に伝えます。 - 直接の対話を避け、弁護士対応を示す
相手は感情的になっていることが多く、冷静な話し合いは困難です。「弁護士に依頼する予定です。今後は代理人を通してください」とだけ伝え、直接交渉には応じない姿勢を示します。 - 退去を求める
退去を求めても居座る場合、「業務に支障が出ます」「これ以上続く場合は警察に相談します」と警告してください。管理権者の退去要求に従わず居座る行為は、不退去罪(刑法130条)や業務妨害罪に該当する可能性があります。
自力交渉の危険性:暴力や不当な要求のエスカレート
「誠意をもって謝罪すれば収まるだろう」と考え、当事者同士で解決しようとすることは極めて危険です。特に相手が強い怒りを抱いている場合、二人きりで会うことは、暴力、監禁、さらなる脅迫へと発展するリスクがあります。
また、要求がエスカレートし、金銭請求や家族・職場への接触が拡大するケースも珍しくありません。
直接接触を避け、警察への早期相談、勤務先への事前共有や警備体制の活用、弁護士による窓口一本化といった対応を組み合わせることが、現実的かつ安全な解決につながります。
なお、相手が配偶者や元交際相手でない場合には、「恋愛感情等の充足目的」という要件を満たさず、ストーカー規制法が適用されないケースもあります。
もっとも、その場合でも各都道府県のつきまとい防止条例や、刑法上の脅迫・業務妨害等によって対応できる可能性があり、安易に「法的に何もできない」と判断すべきではありません。
不倫を理由に解雇される?会社への影響と処遇
「会社にバラす」と脅されたとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのが「解雇されるのではないか」という不安でしょう。
しかし、日本の労働法制において、解雇は極めて厳格に制限されており、私生活上の不倫だけで直ちに職を失うケースは多くありません。
原則としてプライベートな不倫で解雇はできない
解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当でなければ無効とされます(労働契約法16条)。
不倫は、原則として私生活上の行為です。
業務と直接関係のない私的問題を理由に、会社が従業員を解雇することは、基本的に認められていません。
実際の裁判例を見ても、不倫の事実があるという理由だけで解雇が有効と判断されたケースは極めて限定的です。
会社としても、不当解雇として争われるリスクを負ってまで、一社員の私生活上の問題に踏み込むことは通常考えません。
そのため、「相手が会社に通報したら即解雇される」という可能性は、現実的には低いといえます。
懲戒処分対象となる例外ケース
もっとも、「絶対に何の処分もない」とまでは言い切れません。私生活上の行為であっても、業務や会社の社会的評価に具体的な悪影響が生じた場合には、懲戒処分の対象となることがあります。代表的な例としては、次のようなケースです。
- 社内不倫により業務に著しい支障が生じた場合
例:職場で公然と不適切な関係を示す、私情により人事評価や業務判断を歪めるなど。 - 会社の社会的信用を毀損した場合
例:取引先との不倫が原因で取引停止に至った、報道等により企業イメージが大きく損なわれた場合。 - 他の重大な不正行為が伴う場合
例:不倫関係を隠すために経費を不正流用した、横領や背任行為が関係している場合。
それでも、最も重い処分である懲戒解雇のハードルは非常に高く、実務上は「戒告」「減給」「配置転換」など、比較的軽い処分にとどまるケースが大半です。
会社に知られた後のダメージコントロール
万が一、不倫の事実が会社に知られてしまった場合、その後の対応次第で結果は大きく変わります。
説明はあくまで「業務への影響を最小限にすること」に絞り、私的事情の詳細に立ち入る必要はありません。
不用意な自白や過度な説明は、かえって懲戒処分の根拠を増やしてしまうおそれがあります。
基本的には、「私的な問題でお騒がせして申し訳ありません」、「業務には影響が出ないよう対応します」、「現在、弁護士に対応を依頼しています」といった必要最小限の説明にとどめるのが賢明です。
弁護士が介入している事実は、会社にとっても状況整理がしやすく、感情的な対応を避ける材料になります。それ以上の追及を控える合理的な理由にもなり得るでしょう。
今すぐやるべき証拠保全とNG行動
脅迫を受けた瞬間から、当事者間では事実上の「証拠の主導権争い」が始まります。
感情的に対応してしまうか、冷静に証拠を積み上げられるかで、その後の交渉・警察対応・裁判の結果は大きく変わります。
恐怖で動けなくなる前に、取るべき初動を正確に押さえておきましょう。
相手の脅し文句・LINE・録音データの保存
脅迫行為は精神的な攻撃であると同時に、法的には極めて有力な防御・交渉カードです。
「相手が違法行為に及んでいる」ことを客観的に示せれば、警察相談や慰謝料交渉、示談条件の調整に直結します。
以下の証拠は、可能な限り漏らさず保存してください。
- メッセージ履歴
LINEやメールのスクリーンショットは、発言内容とともに「日時・送信者」が分かる状態で保存します。「会社に行く」「金を払え」など具体的表現は特に重要です。 - 通話・会話の録音
電話や対面での会話は、可能な限り録音してください。怒鳴り声や具体的な害悪の告知は、脅迫性を裏付ける強力な証拠になります。 - メモ・日記
いつ、どこで、誰から、どのような言動があったかを時系列で記録します。後からの補足でも構いません。 - 診断書
暴力による怪我、あるいは強いストレスによる体調不良がある場合は、必ず医療機関を受診し、診断書を取得してください。
絶対にやってはいけない「念書へのサイン」と「安易な謝罪」
強い恐怖下では、「とりあえずサインすれば終わる」「謝れば収まる」と考えがちです。
しかし、これは最も危険な対応です。
相手が用意した念書や合意書に、その場で署名してはいけません。
「慰謝料○○万円を支払う」「会社を辞める」といった内容に署名すると、後から「強迫による取消し(民法96条)」を主張する余地はあっても、立証のハードルは格段に上がります。
また、不倫の事実関係が確定していない段階での安易な謝罪も避けるべきです。
「謝った=事実を認めた」と評価され、相手の請求を補強する証拠になりかねません。
その場では、「弁護士に相談してから対応します」とだけ伝え、判断や約束を先送りしてください。
警察へ相談すべき身の危険を感じるケース
生命・身体への危険が具体化している場合、警察は実際に動く可能性があります。
以下のような状況では、ためらわず最寄りの警察署(生活安全課)に相談してください。
- 自宅や職場付近での待ち伏せがある
- つきまとい行為が繰り返されている
- 「殺す」「危害を加える」など具体的な害悪の告知がある
被害が反復している、あるいは危険が切迫している事情があれば、警察が警告・指導・禁止命令等を検討しやすくなります。
たとえ直ちに事件化されなくても、「相談実績」を残すこと自体が、後の重要な証拠となります。
弁護士介入で脅迫を止め、減額交渉を成功させる
感情的になっている相手を、個人で説得し続けることには限界があります。
法的に対抗するためには、早期の弁護士介入が有効です。
受任通知送付による物理的接触の遮断
弁護士に依頼すると、まず相手方に受任通知が送付されます。
この通知には、「今後の連絡・交渉はすべて代理人を通す」旨が明記されます。
これにより、相手方の直接連絡や訪問を強く牽制できます。
それでも接触が続く場合には、業務妨害や平穏侵害として、警察相談や法的措置を検討する材料になります。
脅迫を交渉材料にした慰謝料の減額・解決
相手方の脅迫、名誉毀損、つきまとい等は、交渉において極めて重要な事情です。
これらが認められる場合、こちらからも不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を検討し、慰謝料額の調整(減額事情)や反論材料として主張することが可能です。
相手の違法行為を法的に指摘し、交渉の力関係を修復することで、不当な要求を退け、適正な水準での解決を目指します。
示談書による「口外禁止条項」の締結
最終的な示談では、金額以上に口外禁止条項が重要です。
「本件について、正当な理由なく第三者に口外しない」ことを明文化し、違反時の違約金を定めることで、将来の職場・家族・SNS等への暴露を強力に抑止できます。
「バラせば自分が損をする」構造を作ることが、真の意味での解決につながります。
まとめ
最後に、本記事の重要ポイントを振り返ります。
- 脅しは違法:不倫が事実でも、過度な脅迫や強要、恐喝は許されない
- 解雇は困難:私生活の問題のみで、即懲戒解雇される可能性は低い
- 接触の回避:当事者間の話し合いは危険。物理的な接触を避け、記録を残す
- 法的盾の活用:弁護士の介入で窓口を一本化し、法的に解決を図る
不倫を盾にした脅迫は、放っておけば職場や家族を巻き込み、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
「自業自得だから」と一人で抱え込まず、第三者である弁護士が介入することで、相手方の暴走を法的に抑制し、職場バレのリスクを最小限に抑えることが可能です。
一人で悩んでいる方は、ぜひ一度弁護士へご相談ください。
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