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【1話】親は毒

小説版

話し合い

モラハラ夫との交際当初、モラハラ夫から私に渡された本がありました。
「毒になる親(スーザン・フォワード著)」という本でした。

この本を渡された理由をお伝えするため、まずは私とモラハラ夫との出会いからご紹介します。

モラハラ夫と私の出会いは、某SNSサイトでした。
私のアカウントに、モラハラ夫がダイレクトメッセージを送ってきたことがきっかけでした。

初めは、モラハラ夫からのメッセージを無視し続けていたのですが、ある日、私は飲み会の帰りに酔っ払った勢いでそのメッセージに返信をしてしまったのです。
そこから、私とモラハラ夫とのメッセージのやり取りが始まりました。

モラハラ夫は巧妙なメッセージでどんどん私に近づいてきました。
最も印象的だったメッセージが「君は心に何か抱えているものがあるね。僕と話しをしたらきっとその心の闇も晴れるよ。電話で話そう」と言うものでした。

SNSで出会った人と、電話で話すなんて考えられないと、初めのうちは拒否していましたが、やり取りを重ねるうちに、少し位ならいいかもしれないと思うようになりました。次第に、非通知で電話を掛けるのならいいかなと思うようになり、それまではメッセージのやり取りだけだった私たちは、いよいよ電話で話すことになりました。

電話の第一声は「ああ、やっと声が聞けた。すごく嬉しいよ。さあ、君の抱えているものを僕に話して。僕は他人の話を聞くことが大好きなんだ」というものでした。
私としては、モラハラ夫の言う、“抱えているもの”など特になかったので
「どうしてあなたは私に心の闇があると思うの?」と聞き返しました。
すると、モラハラ夫はこう言いました。
「君のSNSのプロフィールを読んだよ。そこにヒントがあるよ」
私は「何のこと?」とさらに聞き返すと、
「”私は双子座のAB型でややこしい性格です”って書いてるでしょ。それだよ。自分のことを”ややこしい”って自分から言う人間は、誰かに構ってほしいからだよ。心に闇を抱えてるからそう言うんだよ」と、モラハラ夫は切り返してきました。

私は「AB型の双子座=四重人格」という、世間一般的なステレオタイプを、おもしろおかしく書いただけのつもりでした。
それをモラハラ夫は、「私の心の闇」と言ってきたのでした。

実のところ、私の性格は四重人格的な性質は皆無と言っていいほどで、どちらかと言えば単純で、相手のことをすぐに信用してしまうところがあります。
そんな単純な私は、途端にモラハラ夫の言う「心の闇を抱えている自分」というものをすっかり信じ込んでしまったのです。

そこで、その時に思いついた心の闇が、私が高校時代に不登校の時期があったことでした。
私は、その当時のことを40分ほど話し、モラハラ夫はひたすら私の話を聞いていました。

そして、私が話し終わった後の彼の第一声が、こうでした。
「君のことがよくわかったよ。君の心の根底には”怒り”があるね。そして、その怒りは君の親に向けられてるね」

怒り?親への?

はじめはピンと来ませんでした。しかしながら、モラハラ夫は巧みに私が親への怒りを抱えていることを懇々と話すのでした。
これまた単純な私は、どんどんモラハラ夫を信じ切ってしまうようになるのでした。

そんな単純な私と、巧妙な話術の持ち主のモラハラ夫が付き合うことになるには、さほど時間はかからず、この電話の数日後には付き合うことになっていました。

そして、モラハラ夫と私が付き合い始めて早々のことでした。
「君に読んで欲しい本がある」と渡されたのが、冒頭で紹介した「毒になる親」でした。

これを読めば私の親の本性がわかると言われ、素直に読み始めました。

この本に書いてあることすべてに当てはまるわけではありません。
むしろ当てはまらない項目の方が多いのですが、いくつかの項目で、自分の親と重なるところがあり、単純な私は、一気に自分の親はこの本のタイトルどおりの親なのだ、と思い込んでしまったのです。

それ以降、私は親を意識的に遠ざけるようになりました。実家に帰ることは4年に1度。
まるでオリンピックのようなペースになってしまいました。
また、モラハラ夫も、巧妙な話術で
「大丈夫。僕と一緒にいたら、君を親には近づけない。君は親のそばにいちゃいけないんだ。守ってあげるよ」と、私と親を遠ざけることにしたのです。

一般的に、モラハラ夫は、妻が自分の実家に帰ったり友人と会ったりするのを嫌がる傾向にあります。
このモラハラ夫はまんまと、妻が実家に帰らないように仕向けることに成功したのでした。

清武 茶々

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