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【第24話】モラハラ夫と花見

小説版

以前、私が転勤のため、ある地方都市に行くことになったことをご紹介させていただいたことがあります。私が転勤した時期は私とモラハラ夫の婚姻期間も7年ほど経過していました。

転勤の期間は2年半。実はこの転勤期間中のモラハラがもっとも激しく壮絶でした。


この回からは、主にこの転勤期間中に起こったモラハラをご紹介させていただきます。


私がこの地方都市に転勤になった理由は、店長として赴任することになったためでした。

転勤先へは、当たり前ですがモラハラ夫も一緒についてきました。

転勤先で、会社が私たち夫婦に用意してくれた社宅は、それまで私たち夫婦が住んでいた1DKの30㎡築15年のマンションから、2LDKの60㎡築4年、私たち二人にはもったいないくらい広く綺麗なマンションでした。

毎月の住宅手当や店長手当も支給され、私たちはとても恵まれた環境を与えてもらいました。


環境には恵まれていましたが、私は店長としての赴任でしたので、それまでの社員の立場や副店長の立場と違い、店舗の運営、管理、すべての責任を担っておりました。

そのため、休みは週1回程度で、勤務時間も朝早くからの出勤で、日によっては帰宅時間も夜遅くなることも頻繁にあり、生活の中で仕事に占める割合がかなり大きくなっていました。

会社から支給の携帯電話も持つことになっていたため、休みの日に携帯電話が鳴り、急遽店舗に呼び出されることもしばしばありました。

ちなみに、モラハラ夫は相変わらずの在宅ワークで、勤務時間は平日の9時~15時。土日祝日はしっかりと休みを取っていました。


このエピソードは、そんな私の貴重な休みの日に起こった出来事です。


季節は春。桜が満開の頃でした。

私は久しぶりのお休みだったので、その日は約1年ぶりに美容室に行く予約も取っていました。

美容室には午前中に行く予定にしていたため、モラハラ夫からひとつの提案がありました。

その日は平日ではありましたが、モラハラ夫も自分の仕事を午前中で切り上げて、私が美容室での施術が終わったあとに、二人でお花見に行こうという提案でした。

私も断る理由はありませんので、美容室での施術が終わり次第、モラハラ夫とお花見に行くことにしたのです。


美容室で、私は腰まで伸びきった長い長い髪の毛を、肩甲骨くらいまでの長さにカットしてもらっていました。

すると、カットをしてもらっている最中、洋服のポケットに入れていた会社支給の携帯電話が鳴り始めたのです。

着信番号は私の勤務先の店舗からでした。

休みの日に勤務先から掛かってくる電話は、良い内容の電話と、そうでない電話、はたまた至急の確認決裁が要るときのいずれかの電話ですが、その時私は直感で「この電話はきっと良くない内容の電話だ」と感じました。

私は美容師に断りを入れてその電話に出ると、案の定、良くない内容の電話でした。


店舗でお客様からのクレームが発生したのです。それはクレーム報告の電話でした。

どこの会社でもそうですが、クレームが発生すると何よりもまずは初期対応が肝心です。

私は、クレームの内容をスタッフから聞き取り、早急に責任者がお客様の元へ謝罪に行くべき事案だと判断しました。

私はその場ですぐさまお客様へ電話をし、起こってしまったクレームへの謝罪、そして、会って謝罪したい旨をお伝えし、その1時間後にお客様宅へ訪問するためのアポを取り付けました。


美容室での施術はカットの後にヘッドスパを予定していましたが、ヘッドスパはキャンセルし、私は美容室をあとにしました。

美容室を出て、そこからすぐ近くにある自分の店舗に立ち寄ってから、お客様のお宅へ訪問する予定にしていました。

しかしながら、私にはどうしてもその前にしておかなければならない業務がありました。


そうです。モラハラ夫への連絡です。

モラハラ夫に、美容室が終わってもすぐに花見に行けないことを伝えなければならなかったのです。

モラハラ夫にその連絡を入れるとどうなるかは安易に予想がつきました。

なので、せめて傷が浅く済むように私は考えました。モラハラ夫への伝え方を工夫しました。

私はモラハラ夫に「これから、クレームの対応に行ったとしても、お昼過ぎには終わるから、そのあとに一緒にお花見に行こう。その時間からでも十分お花見は満喫できるから」と、予定していた時間からは多少ズレてしまうが、お花見には必ず行けることを強くアピールしました。


しかしながら、そんな工夫も空しく、私からの一報で、モラハラ夫は激しいモラハラモードへと豹変したのです。

「お前の仕事は、自分の休みを犠牲にしてまで、自分のプライベートを犠牲にしてまでやる価値がある仕事なのか。ただの店長だろ。店長がなんでそこまでする必要がある。」

「そんなクレーム対応行かなくていい。行くな。行くなら俺は知らない。もうお前の仕事の話も一切聞かない。」

このときの一報で繰り出されたモラハラです。

モラハラ夫からはクレーム対応に行くなと言われましたが、そんなことは出来るはずもなく、私はモラハラ夫の電話を無理矢理切り、お客様の元へと向かったのです。

クレーム対応は上手くいきました。

お客様から許していただき、予定していたとおり、お昼過ぎには自宅へ帰ることができました。

自宅で待っていたのは、怒りに満ちたモラハラ夫でした。

このまますぐに出掛ければ花見は十分に楽しむことができるのに、一度モラハラスイッチの入ったモラハラ夫は、それをしようとしませんでした。

そして、私はモラハラ夫からのモラハラを受けることに徹したのです。

「お前は俺との一生に一度の花見よりも、何の価値もない仕事の、何の価値もないクレーム対応を優先した。今のこの日に咲いている桜は、来年は二度と同じ花をつけない。言うなれば、今日というこの日を無駄にしたのは一生を無駄にしたのと同じだ。」

この台詞を何度も何度も繰り返し、言い回しを変え延々と言い続けていました。


そのような中、なぜか私たち二人は自宅の外に出ていました。

モラハラ夫はモラハラをしながらも外出したいと言ってきたため、私たちはそのまま外出したのです。

そして気がつけば、私たちは満開の桜の並木道を歩いていました。

けれど、モラハラ夫は私にモラハラすることに夢中で、自分の目の前に広がる満開の桜に目を止めることはありませんでした。


今のこの日に咲いている桜は、来年は二度と同じ花をつけないというのに。

清武 茶々

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