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【40話】モラハラ夫は変わらない

小説版

 私が初めてモラハラ夫の言いなりではない企業に応募してから、その企業の内定をもらうまではトントン拍子でした。

 モラハラ夫の希望する転職先に応募を開始してから、かれこれ27社目での内定でした。

 前回のエピソードで、モラハラ夫が母と電話で話すことが出来なくなったことをご紹介しましたが、母と話すことが出来なくなったその後も、私は内定が出るまで毎日のようにモラハラ夫から

「お前は社会から必要とされていない。12年のこれまでのキャリアは大したことない」と、電話でのモラハラを受け続けておりました。

内定が出たことをモラハラ夫に報告すると、モラハラ夫は拍子抜けしたように

「あぁ、おめでとう。良かったね」と一言だけ言いました。

 その言葉を受けて、私は相変わらず懲りずにモラハラ夫とやり直そうと、モラハラ夫に対して

「これで私の地元で一緒に生活できるよ」と嬉々とした声で話していました。

 モラハラ夫はそんな私に対して「うん。わかった」と答え、こんな提案をしてきました。

 「お前さ、そもそも俺たちがこんな風に離ればなれになったのは、お前が親を呼んで、あんな大騒動を起こしたからだろう。本来であればお前があんな騒動さえ起こさなければ今でも一緒にいれたんだ。やっぱり俺はお前の地元には何があっても行かない。お前がこっちに来るべきだろう。」

 ようやく地元での内定が決まった私に対して、もともと私たち夫婦が住んでいた場所へ戻るように促してきたのです。

 皆さんもこれまでのエピソードでお分かりのように、モラハラ夫の行動力は、例えるならば、動かざること山の如しでした。

 自ら動くことは一切せず、誰かが動いてくれるのを待ち、誰かが動いて自分の考えと違えばその人のせいにする。

 今回もそうでした。

 私は、せっかくこれから新しい仕事に就いて、一から頑張ろうとしていたにも関わらず、モラハラ夫のこの発言でいきなり出鼻をくじかれてしまいました。

 そして、私はモラハラ夫の提案に対してこう答えました。

 「わかった。私は、○○君のためにこの新しい会社は1年間務めたら辞める。そして、頑張って100万円貯金して、○○君の元へ戻る引っ越し資金にする。それでいいかな。」

 すると、モラハラ夫は鬼の首を取ったかのように「ほら、お前があんな騒動起こすから、今度は履歴書まで汚す羽目になるんだ。本当にお前は自分を不幸にするのが好きだな」と言い、私がモラハラ夫の言うことを聞こうとしてもまだモラハラを続けてきました。

 けれども、この時の私は、モラハラを受け続けながらも粘りました。

この提案はモラハラ夫には何も損はさせない。損するのは私だけで、モラハラ夫のために私が損をするのは痛くもかゆくもないと説得し続け、ようやくモラハラ夫が私の提案を呑んでくれたのです。

 そんなこんなで、私が新たな職場への初出勤3日前のことでした。

私は、これから仕事が始まり、しばらく休みも取ることができなくなるため、23日でモラハラ夫に会いに行くことにしたのです。

 モラハラ夫と会うのは、モラハラ夫が私の父と母に説得をしに私の実家に来て以来、約1ヶ月ぶりのことでした。

正直なところ、久しぶりに会うモラハラ夫に対して、私は何のときめきも感じていませんでした。

どちらかと言えば、終始、モラハラ夫のモラハラスイッチを入れてしまわないかと気を遣い、ビクビクしながら、過ごしていました。

 その一方で、モラハラ夫は終始ご機嫌でした。

なぜならば、この時の二人の飲食代や宿泊費をすべて私が負担することになっていたからです。

 そして、そうなった理由は、私があんな大騒動を起こしていなければ、こんな旅費は発生しないからというモラハラを事前に私にしていたからです。

1日、1日と、私はモラハラ夫のモラハラスイッチを入れることなく乗り越えていました。

そして迎えた最終日。私はとても疲れていました。

 それでも私は、モラハラ夫と過ごす最終日まで終始気を遣い、肉体的疲労も限界になりながらも、モラハラ夫のモラハラスイッチを入れることなく過ごせていました。

 ところが、いよいよ私が帰りの空港行きの電車に乗る直前、駅の構内での会話で、それは起こりました。

 「今回は、○○(私)に旅費から何もかも出してもらったけど、もしも地元でお金に困ったらなんでも言うんだよ。」モラハラ夫が私に優しい声で言ったのです。

 私は、3日間無事に過ごせたことと、あまりにも気を遣いすぎて疲れていたせいか、モラハラ夫がモラハラ夫であることを忘れてしまっていたのだと思います。

またもや、モラハラ夫が変わってくれたのだと、淡い期待を抱いていたのかもしれません。私はモラハラ夫にある話をしてしまいました。

その話とは、私が数ヶ月後に地元の友人と旅行に行く計画を立てているというものでした。その計画はモラハラ夫には一切話していませんでした。

 なぜなら、そんなことを話してしまえば、モラハラ夫のモラハラが繰り出されると考えていたからです。

 しかしながら、モラハラ夫からの優しい言葉を受けて、何を思ったのか、私は友人との旅行の計画をしており、その時にお金が必要になるかも知れないということを話してしまったのです。

これにより、私の3日間の苦労は水の泡となってしまいました。

やはり、モラハラ夫はモラハラ夫でした。なにひとつ変わっていませんでした。

途端にモラハラスイッチが入ってしまったのです。

 「お前は何を考えているんだ。これから二人で貯金しようとしてるのに、お前はアホじゃないか。お前にはもうついて行けない。勝手にしろ。」

 そう言って、モラハラ夫はその場を立ち去ろうとしました。

私は必死でモラハラ夫を引き留めようと力尽くでした。

 けれども、帰りの飛行機の時間もあり、電車の時間も迫っています。

 私はモラハラ夫を引き留めることができず、最悪の別れ方をしてしまったのです。

帰りの電車、飛行機の中、私の目からは洪水のような涙が溢れていました。

 「あんなに頑張ったのに。やっぱり私はダメな女だった。」

 そうして、そんなことがあった翌日から、私は新しい職場へと出社することになったのです。

再出発の職場で、私は何とも言えない懐かしい気持ちを取り戻しはじめました。

それは、自分の意思で、誰の言いなりにもならず仕事をすることができることが、とても有り難く幸せであるということです。

 すると次第に、これまで何をしてもほどくことができなかったモラハラ夫との太い太い鎖が、徐々にほどけはじめたのです。

 ただ、モラハラ夫と最悪な別れ方をしてからも、モラハラ夫からのモラハラ電話やモラハラメールは続いていました。

はじめの23週間ほどは、私もそれに対して必死に返事をしていたのですが、新しい環境、新しい仕事に慣れ始め、次第に私から、モラハラ夫の着信に対しての折り返しやメールの返信をする数が少なくなってきたのです。

 すると、どうでしょう。

それまでモラハラばかりだった内容のモラハラ夫からのメールが、掌を返したように

「今何してるの?元気かな?新しい職場はどう?」などと優しさを含んだものになっていました。

私が新しい職場に入社して1ヶ月程経った頃でした。

その頃になると、私はモラハラ夫からのメールに対して何一つ返信をすることがなくなっていたのです。

 なぜなら、私はようやく気付いたからです。モラハラ夫は変わらないと。

 それには、10年もの歳月がかかりました。私は目が覚めたのです。

モラハラ夫と遠く離れて、新たな環境に身を置き、モラハラ夫の意思とは無縁に仕事をすることで、ようやく身も心も離れることが出来たのです。

 正直な気持ちをお話しすると、私は、この10年間の自分の愚かさ、決して取り戻すことができない時間をモラハラ夫に捧げてしまったことを心底悔いました。

 けれども、気づけたこともありました。

 それは、自分に自信を持つことの大切さです。

世の中にダメな人間なんて誰一人いません。

  一人一人が世界に唯一無二の尊い存在です。

自分に自信を持ち、自分らしく、与えられた一度きりの人生を、後悔のないように生きていくことがどれだけ素晴らしいことか・・・。

 私は、10年かかってようやく気づくことができました。

 皆さんの中にも、パートナーからの酷いモラハラを受けて、自分を卑下しているひとがいるのなら、そんな相手からは一日でも早く逃げ出してしまいましょう。

 逃げ出すときの苦しみや痛みは、これからやってくる新しい毎日が、きっと癒やしてくれるはずです。

モラハラなんかに汚されず、一度きりの人生を、自分らしく後悔のないように生きていきましょう。

清武 茶々

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