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【第29話】届かなかった叫び

小説版

前回、前々回とご紹介しているエピソードは、少々気が重くなるようなものばかりでした。

そして、今回のエピソードはこの2回のエピソードと合わせて「地獄の3部作」とするならば、そのトリを飾るにふさわしいものとしてご紹介させていただきます。

前回、前々回からご紹介のとおり、モラハラ夫のモラハラは、私の隠れた買い物により制御不能になっていました。

私は、連日昼夜を問わないモラハラ夫からのモラハラを受け続け、心身共に疲弊していました。

前回のエピソードでもお話ししていますが、当時の私は、モラハラ夫からのモラハラをどうにかして避けようとして常に気を張っていました。

しかしながら、どうしてか、私のやることなすことすべてが裏目に出てしまい、モラハラ夫のモラハラをさらに加速させてしまっていました。

私が何か言葉を発すると、モラハラ夫が私の言葉の端々の揚げ足を取り、延々とモラハラし続けてくるのです。

正直、当時の私はとても疲れていました。

来る日も来る日もモラハラしかない毎日を繰り返し、精神的に不安定になり、逃げ出したいと思い、助けを求めたいと思う時もしばしばありました。

けれど、その頃の私は完全にモラハラ夫との共依存の関係が確立しているため、逃げることも助けを呼ぶことも、どうにもこうにもできなかったのです。

そんな、ある日のこと。

私が仕事から帰宅し、いつものようにモラハラ夫とスーパーへと買い物に出かけた時のことでした。

おさらいですが、モラハラ夫は在宅で仕事をしています。私が仕事の日にモラハラ夫が自宅の外に出るのは、私とスーパーへ買い物に行く時だけでした。

私は、スーパーへの道中、スーパーでの買い物中、スーパーからの帰り道、終始モラハラを受け続けていました。

ちなみに、その日、私たちがスーパーで購入したものは、400グラム入のヨーグルト7パックと納豆3パックでした。

私たち夫婦は毎朝400グラム入のヨーグルト1パックを2人で食べることを日課にしていましたので、この日、1週間分のヨーグルトを購入していました。

私は、モラハラ夫から、延々と浴びせられ続けるモラハラに、ふと誰かに助けを求めたくなったのです。スーパーからの帰り道、ちょうど自宅マンションの入り口にさしかかった時のことでした。

私は、突如として大きな叫び声を上げたのです。自分でも何を叫んだのかわからない、言葉にできないくらい、近所中に響き渡る大きな声を上げていました。

なぜそんな行動を起こしたのか、その当時を振り返ると、私は誰かに助けを求めたかったこともありますが、何より、モラハラ夫に、私がこれだけ追い詰められていることを理解して欲しかったのです。

私がひとしきり叫ぶと、モラハラ夫は、静かに何も言わず、私の手を引いて自宅マンションへと入っていきました。

マンションのエントランスでも、エレベーターに乗ってもモラハラ夫は無言でした。

私はその時「やった。ようやくモラハラ夫は私の苦しみを理解してくれた。これでモラハラから解放される。彼は分かってくれた」と安堵していました。

ところが、そんな私の安堵はただの早とちりでした。

マンションのエレベーターを降り、自宅の部屋の前へ到着し、鍵を開け、部屋へと入った途端、モラハラ夫は、私に対して報復をしてきました。

モラハラ夫は、スーパーで買ったすべてのヨーグルトを、無言で次から次へと開封し、部屋中に勢いよく撒き散らしたのです。

私は、モラハラ夫の腕を全力で掴み、泣きながら「止めて!ごめんなさい!もうあんなことしないから!」と、必死に制止しようとしましたが、すぐに跳ね返され、私自身も床へとたたきつけられてしまいました。

そして、7パックすべてのヨーグルトを撒き散らし、それまで無言だったモラハラ夫が、ようやく口を開き、怒鳴り声を上げたのです。

「お前、ふざけるなよ。恥ずかしいことすんなよ。俺に恥をかかせるなよ。お前があんなことするから、俺も仕返しをしてやった。すべては自分がまいた種なんだよ。お前はなんで俺が嫌がることばかりするんだ。本当に頭が悪いな」

私は、あふれる涙で目の前で何が繰り広げられたのか、何一つ見えなくなってしまっていました。

そして、ようやく目の前のものがクリアになったときに、私の目の前に広がっていた光景は、真っ白になったリビングとカーテンとキッチンでした。

そして、その後のことは皆様も想像が付くかと思いますが、私は、前回のグラタンのエピソードと同じように、モラハラを受け続けながら、一晩中泣きながら真っ白な部屋を一人で掃除したのです。

私の必死の叫び声は、誰にも届くことはありませんでした。

清武 茶々

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